『子育てとこどもの心』(機関紙第1号より)



 このコーナーは、交流分析がいかに役にたったかを、実体験から報告していただくシリーズにしたいと思います。第1回目は、TAネットワークの事務局長で、株式会社チーム医療の梅本和比己社長にお願いしました。

         株式会社チーム医療代表取締役
                     梅本和比己


交流分析(TA)との出会い

 私が初めて交流分析(TA)に出会ったきっかけは、昭和57年に行われたターミナル・ケアのセミナーでした。多磨全生園のカウンンセラー白井幸子先生は、癌の告知にTAを活かされたといういくつかの実例をお話しくださいました。

 そのお話しにとても心を打たれ、私は自分の人生そのものを改めて深く考えるほど感動していました。そして、その日からTAを自分のために勉強しようと決心し、同時にそれを仕事にも展開しようと考えたのです。TAに感動した私は、それからTAの本を読んだりいろいろな講習会にも参加するようになりました。   また、それまで臨床医学中心の自分の会社の仕事を、新たに心理学・心理療法の分野にも展開するように変えてまいりました。

 そうした展開は結果として、会社の社名にしている「チーム医療」の進歩にも寄与できたと思っています。また、自分が予想し考えた以上に、自分自身にとって意味のあるものとなり、今までの仕事だけでしたら決して得られなかったような貴重な体験ができたと思っています。 TAを学び、TAにかかわってこれたその後の14年間はとても有意義だったと思っています。特に、子育てにはずいぶん役に立ち、また子育てそのものを心ゆくまで楽しむこともできたと思います。こども達とふれあう時、こどもの素直な反応にいろいろ教えられたり、驚いたりしながら「TAの威力」といったものも感じてまいりました。

 私はもともと子供が好きですが、TAのおかげでただ子供をかわいがるだけでなく、とても深いところで、もしかしたら無意識の領域を含めて子供とふれあうことができたのではないかと考えています。新生児として生まれた第一日目から、たとえ言葉は通じなくても通じているかようにふれあうことの大切さや、FC(自由な子供)が納得すれば、ただ口でたしなめてもやめないイタズラでも自分からやめること、あるいは待つことによって自立心が育ち親離れし、自分のことは自分でやるようになることなど、いろいろなことを楽しい体験として、子供が私に味あわせてくれた気がするからです。



赤ちゃんの能力

1.赤ちゃんが生まれてすぐしたいこと

 赤ちゃんが生まれてすぐしたいことって、一体何でしょう。
 愛育病院の名誉院長の内藤先生によると、おっぱいを飲むことだそうです。その内藤先生からかつてこんなお話しを伺いました。
スウェーデンで次のような観察実験が行われたそうです。50組の出産直後の母子をそれぞれ暖かい個室に入れて、図2のように赤ちゃんをお母さんのおなかの上に置いたところ、そのうち30数組の赤ちゃんが2時間以内に、お母さんがなんの手助けをしなくても匂いをたよりに、じわじわとお母さんのおなかから胸にはいあがりおっぱいを飲んだそうです。 私のこども達が生まれた、練馬区にある関根産婦人科の関根先生ご夫妻は、希望すれば生まれてすぐの赤ちゃんに母乳を飲ませてくれます。そのことが母と子の強い絆をつくる重要な働きをするというのです。

2.赤ちゃんからの反応

 内藤先生や関根先生からのお話しから、生まれてすぐの赤ちゃんにも高い能力があることが分かります。私は生後3か月の次男とのふれあいからそのことを体験できたように思います。
次男が生まれたころは毎日終電で帰ってくるぐらい忙しく働いていました。私は帰ってくるとすぐに着替えながら、泣いていても寝ていても「今、着替えたらだっこしてあげるからね。チョット待っててね。」と呼び掛けていました。



 そして、「かわいいね!かわいいね!」と何回も繰り返し言いながら一時間ぐらいだっこするのが私の日課であり、次男との大切なふれあいの時間でした。
3か月ぐらいたったそんなある日、大泣きをしている次男に呼び掛けると、まるで私の呼び掛けに反応するかのようにとピタッと泣きやんだのです。最初は偶然だと思いましたが、次の日から泣いていても呼び掛けると必ず泣きやむのです。私は、生後すぐの赤ちゃんの能力の話しを思い出しました。もしかしたら3か月間の私の様々な語りかけ全体に答えてくれたのではないかと思ったのです。TAのプラスのストロークと相補交流の体験のひとつだったのではないかと思うのです。



夜泣きする次男との受容的交流


 私は平成元年8月に住居を引っ越ししました。当時2歳半の次男にとっては環境の変化がストレスだったのか、夜中の2時ごろに夜泣きをするようになりました。
第一日目はどんなにあやしても泣きやまず、抱っこしたまま2時間ぐらい泣いていました。次の日から3日間は一時間ぐらい泣いていましたが、一日目と違って話はしました。
  そこで泣く理由を「どうしたの」と聞きますが分からないと言うのです。それで、「じゃあ、分かるまで待っててあげるから、それまで抱っこして泣いていようよ。」



と言うと「うん」と返事をしてそれからしばらく泣いていたのです。5日目からは、泣くのも20分ぐらいになりました。7日目は、「どうしたの」と聞くと「分かんなくなっちゃった」といい、抱っこしてやるとまもなく眠ってしまい、安心したのが体から伝わってきました。そして、その翌日から夜泣きはしませんでした。
この体験は、私に「受け入れてあげること」の意味を教えてくれた気がします。



イタズラをする長男との3つの的を射るやりとり


 つぎの体験は、4歳になったときの長男とのやりとりです。
図5のように、そろそろ知恵のついた長男がドアにぶらさがってゆらし、ドアがしまる直前に足で壁をけって遊ぶ事を覚えました。1カ月前からドアが壊れるからやめなさいといわれているのですが、いっこうにやめません。そこで、私はTAの3つの的をいるやりとりをつかってみることにしました)。



(1)「子供Cに肯定的」ストロークを与える
(2)「保護的P」を誘いだす
(3)「成人A」で、自分の欲していることを告げる

ご存じのように、3つの的をいるやりとりは、まず相手のFCにストロークをあげて、次にNPに働きかけ最後にAで自分の要求を伝える方法ですが、これを少しもじってやってみました。



(1)「かっこいいね、すごいよ」
(2)「お父さんにもできるかな」
(3)「お父さん困るんだけどなー」

 まず、「和君、ドアでやるおもしろい遊びお父さんにも教えてよ。」といいました。長男はすぐにやってみせてくれましたが、ほんとうにおもしろいので思わず「かっこいいねー、すごいよ」とほめたたえました。それから「おもしろいから、もっとやってよ」と何回もやってもらいました。そして、「お父さんにもできるかな」と少しAを刺激してみますと、お父さんはドアをこわすからダメダといいましたので、私は「そうだねー、ここの金具のところがとれるかなー。あー、何か少しぐらぐらしてるよ」といって金具のところを子供に見せました。それから、なるべく情に訴えるようにして「和君でも壊れるかもしれないから、もうやらないようにできるかなー。このドアは壊れると直すのにすごくお金がかかってお父さん困るんだけどなー」と言いました。長男はしばらくだまって考えていましたが、「いいよ。」と言いました。それから一度もドアで遊びませんでした。



健全なCP

 最後に5年生になった長男との体験をお話しします。これは、言葉を使わず体だけでCPを使った例です。



この図は、ファミコンで遊んでいて弟と自分の持ち時間のことでズルをしている長男の前にたって、体全体でお前が悪いというメッセージを送っている絵です。

 長男は「なんだよ」とかいって自分の言い訳をしますが、それには答えずだまったままにらんでいましたら、15分ぐらいたって「お父さん、ごめんなさい。」といって、私と弟にあやまりました。
 まさか、あやまってくるとはまでは思いませんでしたので、やってみた私も驚いた体験です。たぶん、この15分の間に長男の自分のCが納得したのだと思うのです。







プロフィール(敬称略)



福井県出身
株式会社チーム医療代表取締役
日本交流分析学会評議員
TAネットワーク事務局長



 
   





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